EPUBの歴史は意外に古く、そのルーツは1999年に承認されたOEBPS(Open eBook Publication Structure)という交換形式にさかのぼります。これを策定した団体が、のちに国際デジタル出版フォーラム(IDPF)として組織化されました。
その後、単一のファイルにまとめて配信できる形式が必要だと認識され、2007年10月にEPUB 2.0が承認されます。2010年9月には、仕様の明確化と誤りの訂正を主目的としたEPUB 2.0.1が公開されました。
そして2011年、大きな改訂としてEPUB 3.0が登場します。この改訂では、HTMLとの連携を密接にし、マルチメディア機能、洗練されたレイアウト表示とフォント埋め込み、スクリプトによる対話機能、グローバルな言語サポートの強化、アクセシビリティの向上が図られました。テキストと音声を同期させる「メディアオーバーレイ」という新しい仕様も、このとき導入されています。
つまりEPUB 3.0は、単なるバージョンアップではなく電子書籍フォーマットとしての土台を作り直した版だと言えます。
制作する立場から見て、影響の大きい違いを挙げます。
| 項目 | EPUB 2 | EPUB 3 |
|---|---|---|
| 本文の記述 | XHTML 1.1が基本 | HTML5をベースにした記述 |
| 目次 | toc.ncx | ナビゲーション文書(nav.xhtml)が必須 |
| 日本語の縦書き | 事実上できない | 対応 |
| ルビ | 事実上できない | 対応 |
| 固定レイアウト | なし | 対応 |
| 音声との同期 | なし | メディアオーバーレイ |
とくに実務で影響が大きいのが目次の扱いです。EPUB 2で使われていた toc.ncx というファイルは、EPUB 3では新しいナビゲーション文書に置き換えられました。EPUB 2の読書システムでは toc.ncx への対応は任意でしたが、EPUB 3ではナビゲーション文書を含めることと、それに対応することが必須と定められています。
EPUBファイルの中を覗くと、nav.xhtml と toc.ncx の両方が入っていることがあります。これは古い読書アプリでも目次が使えるようにするための配慮です。EPUB 3としては nav.xhtml があれば足りますが、互換性のために残されている場合があります。
ここが、日本で本を作る人にとって最も重要な点です。
日本語の縦書きとルビが使えるようになったのは、EPUB 3からです。 EPUB 2の時代、日本語の書籍を標準規格で表現することは事実上できませんでした。そのため国内の電子書籍は、各社が独自形式を使う状態が長く続いていました。
この状況が変わった背景には、日本側の働きかけがあります。日本電子出版協会(JEPA)の解説によれば、3.0以降、日本国内の有識者・関係者の多大な努力とさまざまな働きかけにより日本の事情がかなり取り入れられ、日本国内の電子書籍フォーマットとしてのEPUBの地位は揺るがないものになったとされています。
標準規格になったことの意味も、同じ解説で述べられています。誰もが自由に、そして大多数の読者に向けて電子書籍を制作できるようになった——これがEPUBの最大の利点だという指摘です。
つまり、個人が自分の小説を縦書きの電子書籍にして世に出せるのは、EPUB 3があるからです。 前の章で挙げた「グローバルな言語サポートの強化」という一文の中身は、日本語話者にとってはこれほど大きな意味を持っています。
EPUB 3.0のあとも、仕様は少しずつ更新されています。
| 版 | 時期 | 位置づけ |
|---|---|---|
| EPUB 3.0 | 2011年 | EPUB 2からの大改訂。縦書き・ルビ・固定レイアウトに対応 |
| EPUB 3.0.1 | 2014年 | 維持・改善のための更新 |
| EPUB 3.1 | 2017年 | IDPFによる最後の版 |
| EPUB 3.2 | 2019年5月 | W3CのEPUB 3コミュニティグループが策定。互換性を重視した版 |
| EPUB 3.3 | 2023年5月 | EPUBシリーズで初のW3C勧告 |
| EPUB 3.4 | 策定中 | 2026年7月に勧告候補を公開。勧告は2026年10月19日以降の見込み |
2017年にIDPFがW3Cへ統合されたことで、EPUBの仕様はWebの標準を決める団体が管理するものになりました。EPUB 3.3が「初のW3C勧告」と呼ばれるのは、この経緯があるためです。
そして各版は、互換性を保つように作られています。EPUB 3.3はEPUB 3.2と後方互換であり、EPUB 3.2として正しいファイルは、そのままEPUB 3.3としても正しいと定められています。EPUB 3.2から3.3への移行にあたって、制作の流れを変える必要はないとされました。
次の版であるEPUB 3.4では、ダークモードへの対応や、脚注・巻末注の書き方の標準化といった項目が検討されています。さらに、デジタルコミックへの対応を検討する専門チームも設けられており、マンガをEPUBで扱う際の課題は、いままさに国際的に議論されている最中です。
ここまで見ると、ひとつ疑問が出てきます。最新が3.3なのに、なぜ多くのツールやストアは「EPUB 3.0対応」と書いているのでしょうか。
答えは単純で、「EPUB 3」という形式名と、仕様書の版番号が混同されているからです。
W3Cの解説でも、この点はEPUBに初めて触れる人がつまずきやすい問題として挙げられています。小数点以下の番号は仕様書のリリースを区別するためのものであり、新しい版が出るたびに新しいフォーマットになるわけではないと明記されています。
つまり「EPUB 3.0対応」という表記は、厳密には「EPUB 3という形式に対応している」という意味で使われていることがほとんどです。3.0と3.3で別のファイルを作り分ける必要はありません。
制作する側の結論はシンプルです。
nav.xhtml を必ず用意します。古い環境にも配慮するなら toc.ncx を併記します実際のところ、EPUBを自動生成するツールを使えば、これらの要件はツール側が満たしてくれます。手作業で版番号を気にする場面は、ほとんどないと言っていいでしょう。